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東京高等裁判所 昭和42年(う)1992号 判決 1968年11月12日

被告人 G・H(昭二二・四・一五生)

主文

原判決を破棄する。

被告人を死刑に処する。

押収してある(一)銃身一本(昭和四二年押第六五八号の七一)(二)銃把二個(同号の六九、七〇)(三)空薬きよう一個(同号の七四)(四)弾頭一個(同号の九二)(五)ライフル銃把一個(同号の五一)(六)ズック製銃ケース一個(同号の七六)(七)ライフル望遠照準鏡一個(同号の七二)(八)実包二個(同号の六一)(九)弾丸箱入四一発(同号六二)(10)銃弾三個(同号の六三)(二)銃弾一個(同号の九四)を没収する。

理由

本件控訴の趣意は横浜地方検察庁検察官検事内堀美通彦名義の控訴趣意書記載のとおりであり、これに対する答弁は弁護人平松久生名義の答弁書記載のとおりであるからここにこれを引用する。これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

所論は、原判決の科刑は軽きに失し不当であるとし、その詳述するところは要するに、本件量刑の基礎となるべき○所巡査に対する強盗殺人の犯行は警察官を殺害してその所持する拳銃を強取する目的の下に完全犯罪を目指し、長期間に亘つて犯行の場所、方法、犯行後の逃走経路について綿密な計画をたてて執拗残忍に敢行したものであつて、被告人の自己中心的人命軽視の考え方に根ざす反社会的性向の発露であるから、その与えた被害および一般世人に対する影響からしても極刑は已む得ないものといわなければならない。而してその後の犯行は大胆悪質で危険性高く、被告人の反社会性を如実に示すものであつて酌量すべき何ものもないのに拘らず、原判決は不合理な独断的な理由を以つて無期懲役刑を言い渡したもので不当であるから破棄せらるべきであるというのである。

よつて原審記録を検討するに、原判決がその理由中、第一、被告人の経歴、性格および家庭環境等、第二、本件犯行の動機、第三、本件犯行の計画とその準備、第四、罪となるべき事実、として認定判示したところは、その挙示の証拠により認められるのであり、被告人もその殆んどを自認して居るところである。

原判決は右認定事実に基づき量刑の理由として次の如く説示しているのである。

即ち、本件一連の犯行は、銃に対して異常な興味と関心とをもつていた被告人が尋常には入手できなかつた拳銃を偏執的にまで入手したいとの強い欲求にかられたところから警察官を銃撃してその拳銃を強奪しようと考えたのが動機となり、先づ、○所巡査を犯行現場におびき寄せてライフル銃でこれを銃撃するなどして所携の拳銃等を強取し、次いで逮捕を免れ逃走を計る為判示第四の二以下の犯行を重ねるに至つたものであつて、いわば本件犯行は、被告人の右のような拳銃に対する偏執的な欲求を満そうというだけの単なる利己的な動機から敢行されたものであるが、その犯行の結果たるや、被害者の一人については何よりも尊い人命を奪い、他の一人については人命を奪わんばかりの重傷を負わせ、更には無関係な一般市民の生命、身体に重大な危険を感ぜしめ、一般社会に多大な不安と恐怖の念を与えるというような重大な結果を生ぜしめるに至つたものであつて、まさに本件犯行は、目的の為には手段を選ばず、自己の欲求を満す為には他人の尊い生命その他をぎせいにしても全くこれを顧みないという恐るべき自己中心的な人命軽視の考え方にもとづいた極めて危険性の大きい反社会的な行為といわなければならない。しかも、本件一連の犯行の発端であり、また量刑判断の核心となるとも認められる○所巡査に対する犯行は、被告人が第一○○丸に乗船中から犯行前日に至るまでの長期間に亘つて犯行の場所および方法、犯行後の逃走経路等について綿密周到な計画を練り、その計画にもとづいて敢行された極めて計画的な犯行であるばかりでなく、その犯行の方法ないし態様においても、あらかじめ用意した計画と準備とにもとづいて公共の安全と秩序の保持とを任務とする警察官の○所巡査を、しかも白昼に、犯行現場におびき寄せ、同巡査から職務質問を受けるや有無をいわさず、拳銃を奪取する為には射殺する外はないものと考え、いきなり所携のライフル銃で同巡査の上体部を狙撃し更にその場に昏倒しながら抵抗しようとする同巡査の頭部を、ライフル銃の銃把が割れる程強打し、つづいて同巡査を付近の林の中に引きずり込んで苦悶しながら医者の手当などを求める同巡査から所携の拳銃の外警察官用のズボンその他をはぎ取るなどしてこれを強取し、同巡査を殺害するに至つたものであつて、まさに成人を凌ぐその奸計と大胆不敵さ、残忍さは言語に絶するものがある。被害者である○所巡査は、一一〇番の電話連絡にもとづく現場出動の指示を受けた為、これが被告人の奸計によつて死地に赴くものとはつゆ知らず、ひたすら空気銃いたずらをする子供らと付近住民の安全を願つて現場に急行したもので、専ら誠実に自己の職務を果たそうとした何等の落度もない善良な警察官であつたのに、被告人の奸計によつて無惨な最後を遂げるに至つたものであつて、その無念さ、激憤の情はまことに筆舌につくし難いものがあつたのであろうし、その遺家族の精神的苦痛も実に計り知れないものがあつたと考えられるのである。又更に被告人は、逮捕を免れ逃走を計る為とはいえ、○所巡査に対する犯行につづいて、その現場にパトロールカーで急行して来た○原、○山の両巡査に対し、○所巡査より強奪した拳銃を差し向け、同巡査らから所携の拳銃等を強取しようとしたが、○原巡査からすきを見て拳銃を発射されるや、即座にこれを射殺しても已むを得ないものと考えてこれに応戦し拳銃を三発位発射し、うち一発を同巡査の下腹部に命中させて逃走するに至つたものであり、僥倖にも○原巡査は一命をとり止めたとはいえ、その犯行の危険性と大胆、悪質さには慓然たるものを感じさせられる。そればかりでなく、被告人は更らに逃走を計る為警察官になりすまして○坂に自動車を運転させ、○藤巡査より逮捕されそうになるや、○坂および同巡査に拳銃を差し向けて脅迫し、そのうえ同巡査の面前で○川より自動車を強取して逃走し、以後被告人の逮捕に躍起になつている警察官らを尻目に○村、後○らから次々と自動車を強取してこれに乗り換え、○川、後○らを車内に監禁し、これらの生命等に重大な危険を与えがら逃走をつづけたものであつて、これら一連の犯行もまさに犯罪小説もどきの実に大胆で悪質かつ知能的な犯行というべきであり、そして最後には、爾後の逃走に備える為銃および銃弾を強取しようと考え、判示第四の六記載のとおり、○○○○銃砲店に押し入り約一時間二〇分もの長時間に亘つて同店からライフル銃や銃弾等を強取したうえ、被告人逮捕の為同店を包囲した多数の警察官らに対しその包囲を突破して逃走する為威嚇射撃をし、その結果警察官らを射殺するようなことになつても仕方ないものと考え、同店店員らを盾としライフル銃などで合計一〇〇発以上もの多数の銃弾を四方に射ちまくつたのであるが、この○○○○銃砲店における犯行も、判示のように多数人に傷害を負わせたに止まり、幸い射殺する結果こそは生じなかつたものの、この為に数百名にのぼる多数の警察官の他、パトロールカー、機動車、散水車、照明車その他が出動し、付近の交通は一時まひ状態となり、さながら市街戦の様相を呈するに至つたものであつて、実に常軌を逸した大胆不敵、危険極わまる悪質な犯行である。しかも以上一連の犯行によつて付近住民に深大な不安と恐怖の念を与えたばかりでなく、一般社会に異常な衝撃を与えるに至つたことは勿論であつて、これら住民や一般社会に与えた影響は誠に重大である。以上被告人の本件一連の犯行の情状ことに○所巡査に対する犯行の恐るべき自己中心的、人命軽視の考え方に根ざす反社会的性向、右犯行の恐るべき計画性、右犯行の大胆不敵さ、残忍非道さ、右犯行による被害者本人は勿論のことその遺家族に与えた想像に絶する精神的苦痛、これが付近住民および一般社会に与えた影響の重大性、又○原巡査に対する犯行の大胆悪質さ、更らに○○○○銃砲店における常軌を逸した危険極わまる大胆悪質な犯行、その被害者らに与えた精神的苦痛、これが付近住民のみならず一般社会に与えた影響の重大性等を考えると、被告人の刑事上の責任は誠に重且大であつて、極刑もやむを得ないものといわなければならない、というのである。

原審記録を仔細に検討考察するに、原判決認定の如き犯罪事実であるから、原判決が量刑の理由として右の如く説示するところは十分に肯認し得るのであつて、異論を差しはさむ余地は存しない。然るところ、原判決は被告人については左記の如き、特殊事情があるから、これを酌んで死一等を減ずべきものとなして居るので、進んでその点について考察する。

即ち原判決は、

一、被告人は、犯行当時一八歳三月余の少年で思慮分別も未熟であり、そのうえ生来の内向的性格が家庭環境から一層助長され親兄弟とは殆んど精神的交流のない閉鎖的な生活を送るようになり、いきおい自分だけの楽しみとして小学校当時から興味をもつていた銃に対して一層の興味と関心とを懐くようになり、各種のモデルガンやライフル銃を買い求め、或いは銃に関する専門図書、銃を使用する犯罪小説等を次々と買いあさつて耽読し、独り楽しんでいるうちに、やがては自分が銃をもつてさえいれば万能であると誤信するようになり、いよいよ銃、殊に小型で威力の大きい拳銃に関心を奪われ、これを入手することに極度の偏執的傾向をもつようになり、遂に拳銃欲しさの余り犯罪小説等に多分に影響され○所巡査に対する犯行を決意するに至つたものであつて、いわばこの犯行は、被告人において思慮分別が未熟であつたのに加えて挙銃に対して極度の偏執的傾向をもつていたことと、銃を使用する犯罪小説等によつて多大の影響を受けたこと等から、是非善悪の弁識力に著しく欠けるところはなかつたものの、現実の社会に対する認識が漸次稀薄となり、現実の社会と小説の社会とを分化し識別する能力がやや低下した状態のもとにおいてその計画をたて、準備を整え、実行行為に及んだものであることが認められる。

二、○所巡査に対する犯行は極めて計画的で大胆残忍非道であつてその結果は誠に重大であるが、もともとその計画としては意欲的且確定的殺意を懐いていたものではなく、先ず第一には挙銃を奪取するのが目的であつて、この為には警察官の肩辺りを狙撃し抵抗不能にすればその目的を達するものと考えていたのであるが、計画とは異り○所巡査より職務質問を受けるに至つた為急にこれを射殺する外はないものと考え同巡査を銃撃するに至つたものであり又その後における銃把による殴打も右銃撃により興奮状態にあつた被告人において○所巡査が拳銃を抜き或いは被告人のライフル銃を掴むなどして抵抗するような態度を示した為思わずそのような行為に出る結果となつたものであり、又これに続く一連の犯行はすべて逮捕を免れ逃走を計る為の行為であり、○原巡査に対する犯行も同巡査に対する銃撃は同巡査に対して応戦したものであつて、又僥倖にも同巡査において一命を取り止めており、更にその後○○○○銃砲店に至るまでの数次の犯行も大胆悪質ではあるが、それ程の実害も無くすんでおり又○○○○銃砲店における犯行も実に常軌を逸した大胆悪質な犯行であつてその結果も重大であるが、同店の受けた実害は多大でなく又同店における被告人の数知れない銃撃も、警察官らによる包囲を突破し逃走する為で、場合によつては警察官らを射殺するに至るべきことを認容はしていたものの主として威嚇射撃をする為にしたものであつて、多数の負傷者を出すに至つたが幸にも一人の死者も出なかつたこと等が認められる。

三、被告人は逮捕された後、終始○所、○原の両巡査並びに○○○○銃砲店における警察官らに対する犯行についてその殺意を否認していた許りでなく、自己の犯行に対する反省や苦悩を示すような言葉は殆んど述べず、銃に関する話に特別興味をもち将来再び銃を射つてみたいなどと述べておるのであつて、これらによれば被告人が当時自己の罪に対する認識や深い悔悟の念或いは自己の犯した重大な罪に対する苦悶の色などが果たしてあつたかどうか甚だ疑わしかつたのであるが、第一三回公判廷において起訴事実の全部を認め、○所巡査やその他迷惑をかけた人々に申訳ないと思つておる、現在でも銃を持ちたいという気持に変りはないから若し再び社会に戻つた際には本件のような事件を繰り返さないという自信はない、自分は少年だが成人と同様に裁判して死刑に処して貰いたいと述べたのであるが、これは長期拘禁に基因する将来の生活に対する自信の喪失、或いは自暴自棄的心境等による影響が無いとはいえないにしても、被告人が自己の罪の如何に深くして大きいかを悔悟し心の底よりこれを反省し死をもつてひたすらその罪の償いをしたいとの心境を真剣に述べたものと認むべきであつて、ここに被告人の現実に対するきびしい認識、自己の罪に対する心からの悔悟、人間性ないし人間的良心への目覚めを見出すことができるのである。

四、被告人は末子として出生し甘やかされ可愛がられて育てられたが両親からはほとんど放任され家庭教育も満足にうけず又心を割つた精神的交流もない冷たい家庭環境の下に育てられた為生来の内向的性格と相俟つて自然に閉鎖的な生活を送るようになり又社会的規律も十分に教えられずに育てられたという不遇な成長過程を経てきたものであつて、これが被告人の反社会的性格を形成し助長するにいたつた一因をなしているものであり、又被告人は銃に対して異常な興味をもち各種のモデルガンや銃を買い求めた外犯罪小説等を次々と買いあさつて耽読し自然に小説の影響を多分に受け、目的の為には手段を選ばずといつた人命軽視の反社会的性向を形成され、これが本件犯行を決意するに至つた一因ともなつていることは明らかである。

被告人は生来温和で素直な性格であり、残酷無慈悲な或いは兇暴的な性格は認められず、中学校卒業後就職した各職場においても誠実熱心にその務めを果たしていたものであつて、前科その他の非行歴は全くなく、本件犯行中においても例えば○木○○子が車内で腹痛を訴え苦しみ出した際自己の不利を省みず同女を途中で下車させるなど僅かながらも人間性が見受けられるし又小中学校の成績は終始下位であつたが、決して理解力が劣つているわけではなく、被教育適格を有していることが認められるのであつて、今後愛情と相互の信頼とに基づいて教育し善導することによつて銃に対する偏執的傾向を是正するとともに人命の尊さを知らしめ、本件のようなことを二度と繰り返さないよう真人間に復帰させ、更生せしめることは十分可能である。

というのである。

よつて案ずるに、被告人の本件犯行の計画は次のようなものである。即ち「一一〇番の電話で警察官を現場におびき寄せ、自分は遠方に待機していてライフル銃で狙撃して抵抗不能にし或いは射殺して所携の拳銃を奪取し、次に外人を脅してその運転する自動車に抵抗不能等になつた警察官を乗せて富士五湖か中津川溪谷方面に隠匿遺棄し、途中で外人を木に縛りつけるなどし、自動車は適当な場所に乗り捨てる」ことであり、これを白昼敢行するというのであるから、原判決のいう如く、現実の社会と小説の社会とを分化識別する能力が低下した為のものと見られないこともないが、警察官をおびき寄せるについて、子供らが空気銃の発射いたずらをして居ることを口実とすることとし、その為に標的用紙を作り、一一〇番で電話申告をする文言をメモ用紙に筆記し、ライフル銃に望遠照準鏡を装着し、これを隠して持ち易いように新聞紙包みとし、銃弾五〇発(内二発はダムダム弾としたもの)、指紋よけの手袋を用意するというに至つては、その周到さは小説的社会のこととはいい切れないものがあり、更に警察官を襲つて拳銃を奪取することは第一○○丸に乗組んで居る頃から企て、昭和四〇年四月中旬に下船した後はライフル銃での射撃練習につとめ、数ヶ所の警察官派出所を下見分して周囲の状況等を調査しその成功の可能をはかり、最後に本件犯行現場で決行すべく決意したのであるが、それは本件現場付近は警察力が手薄であり、且米軍基地関係人が多く、銃声のすることも珍しくなくて、犯行が米軍関係者と疑われることもあつて発覚のおそれが少ない等のことを考え合せた上でのことであり、犯行の前日には地図を携えて現場に行き、犯行場所の具体的な選定、その付近の地理的関係、関係個所間の歩行などに要する時間、○○駅前所在の交番の状況、犯行後の逃走経路及び外人の運転する自動車の交通量等について詳細に下調べをなし、これを地図或はメモ用紙に記入して計画実行の準備をしたことに徴すると、その計画は冷静に、周到に練られて居り、思慮分別未熟な少年の企てとは思われない程現実的可能性があるのであつて、現実社会に対する認識が稀薄になつていた為とはいえないところである。

次に、その犯行について検討するに、○所巡査に対する殺意は確定的ではなかつたと見られないこともないが、それは被告人が○所巡査を殺害することに関心があつたのではなく、拳銃を奪取することを目的としたが為であるが、被告人は拳銃奪取の為には警察官を殺害してもよいと考えて居たのであるから、○所巡査を単に拳銃の存在との関係においてのみ、即ち拳銃の把持者として、排除されるべきものと意識していたともいい得るのであるところ、被告人も認める如く○所巡査は警察官として拳銃を固く守る立場の者であるから、拳銃を携帯して被告人の前に立つ時には既に死を運命づけられていたとも見られるのであつて、被告人の企図の中では警察官殺害は当然のこととされていたともいうべきで、一概に確定的殺意を懐いていなかつたと断言することは当を得ない感がある。このことは、被告人が原審法廷で確定殺意の下での行為であつたと供述したことをまつまでもなく、その後の被告人の行動によつても窺われるところである。即ち、○所巡査に関しては先づ遠方より狙撃するという計画にそごを来たしたのに拘らず同人を急襲し、更に後続の警察官二名に対しては附近の住民が見ていたのに同人らからも拳銃を奪取しようとの行動に出てこれを殺害すべく銃撃しているのであるが、その傍若無人の行動は当初より警察官の殺害を意中にひそめていた為と認むる外ないのである。

又その後の行動を考察するに警察官三名を銃撃し内一名に対しては瀕死の重傷を負わせた犯人の行動としては想像し得ない程沈着で冷静に振舞い、○坂○太郎らをして警察官と思い込ましめ、○藤巡査の面前で素速く○川○男の乗用車を強奪し、○村○一の普通貨物自動車に乗り換え、更に後○久の乗用車に乗り込んで逃走を続け、遂に警戒線を突破して東京都内に易々と進入したのである。その間の被告人の行動には犯人として追われる者の窮余のあがきという様相はなく、自己の目的に邁進している積極的意欲的な様子が窺われるのであつて、○木○○子を下車させたのは同人が車中で苦しんだのでは今後の行動に支障を来たすからというのであり、下車させるについては警察官に密告すれば車中に残つている二人を射殺すると脅迫して居るのであるから、同人を下車させたことをもつて暖かい人間性の顕れであると見ることはできないのである。又○○○○銃砲店に侵入したのは逃走の為に必要な銃弾を入手する目的であり、同店においては恐怖の余り失神せんとしている女子店員らを盾として包囲している警察官らに乱撃し、同人らを人質としてその包囲から脱出せんとしたのであつて、その行動には人間的情感が欠除していたのではないかとすら思われるのである。被告人は○○○○銃砲店での乱撃行動について、「逃げられるだろうか」ということは考えず、ただ「逃げてやるんだ」と思つていたといい、女子店員らを盾として包囲を破り人質として逃走しようとしたというが、車中に後○、○川を人質として都内に進入した時は抵抗すれば殺す気であつたといい、又銃弾を盗つて更に逃走した時は途中で同人らを殺害してしまう気であつたというのであるから、右女子店員らを人質として逃走すれば同人らも同一運命となるべきものであつたというべく、又被告人には単にその場での逮捕を免れるということに止まらず次の行動を起す為に逃げなければならぬという積極的な意図があつたものと窺えるのである。被告人が本件のような大胆不敵な犯行を累ね得たのは、被告人に拳銃入手という目的の為にはあらゆる障害を排撃するという強い意思があり、その結果として障害が人である場合にはこれを殺害してでも排撃すべく、その人数の多寡は意に介せずとの決意があり、その気迫が行動として現われていた為であろうと思われるのである。

被告人の反社会性を考察する場合に重点をおくべきはその意図である。被告人は拳銃を奪取して逃走を遂げることを企て、その為には如何なる障害をも排撃する意図であつたのであるから人命などは意に介していなかつたと認むべきである。○所巡査に対する銃把による殴打行為は同人が抵抗する余力があるように見えたが為であり、○原巡査らに対する銃撃も同人らが被告人の指示に盲従しなかつたが為であるから、その後においても、被告人の指示に従わなかつた者がいたとすれば死の犠牲者は続発したと思われるのであつて、このことがなかつたことは全くの僥倖で、それ故に被告人の反社会性を軽く見る事由とはなし難いのである。○○○○銃砲店からの乱撃についても同様である。人命を失つた者のなかつたことは幸であつたが、その際の住民の恐怖状況について○山○子、森○保○クの供述調書には如実に述べられて居るのであるが、誠に深刻な不安を与え、押へ難い憤りをいだかしめたものであり、その際の多数の負傷者について見ればその人々は死の転機が来たかも知れない危険な状況下での負傷であつたが、それは被告人が此所を脱出する迄は停止されることのない乱撃によるものである。原判決は「常軌を逸した大胆悪質な犯行」であると説示して居るが、寧ろ人間性喪失の冷酷な行動というべきであろう。

被告人がこのような犯行をなすに至つた事情としては原判決が指摘するように家庭環境や小説等による影響の有無を考慮すべきであろうから、被告人に関する少年調査記録、近藤宗一および保崎秀夫作成の各鑑定書等によつて検討する。被告人の家庭は表面的には特に取上げるべき葛藤はなく平静であつたが、人間的なつながりが稀薄で被告人は愛情面では満されないものがあつたと認められるが、姉S子は被告人に対して母親代りの愛情を示し、継母Kも子供らを理解し摩擦を起さないようにと努めていたので、被告人ら子供は良い義母だというようになつていたのであるし、経済面では被告人は小使銭に困るということもなくて生長し、職に就いてからはその収入の殆んどを自分で費消することができたのであつて、愛情に満されないことが生育時における人格形成に幾分影響のあつたことは否定し得ないが、現代社会の一般家庭の在り方から考察すれば、このことを過大視することは相当でない。又被告人は小学校低学年の頃から銃に対する関心を持ち始め花火の火薬で手製の銃弾を造り、ガン雑誌等を読み更に銃に関係のある小説等を耽読するようになつていよいよ銃に対する興味をつのらせ、遂には銃が射てるということで少年自衛官に応募するに至つて居るのであるから、これらのことが被告人の人格形成に影響したことは争えないのであつて、所謂ガンブームといわれる世相の下での若年者への影響は軽視し得ないが、それはそれなりの形でとどまるのが通常であつて、これを以つて、「目的の為には手段を選ばずといつた人命軽視の反社会的性向」を形成するに至つた一因とまで認むることは首肯し難いところである。又被告人は生来温和で素直な性格で前科も非行歴も全くないというのであるが、それが突如として惨虐な犯行を行なつたということは理解し難いもののようであるが、それはそのような性格を内包して居たが、これを発現する機会に遭遇しなかつたというのではあるまいか。原判決は被告人が死刑に処して貰いたいと述べたことを重く評価すべきものとしている。被告人は当審においても同旨の供述をなしているのであるが、原判決も指摘するように、その言葉は、長期拘禁の影響とも、悔悟の為とも解されるし、又他人の人命と共に自己の生命に対する尊厳を認めない為とも窺えるのであつて、被告人の右供述を余り重視することは当を得ないところである。

原判決は、被告人を愛情と相互信頼とに基づいて教育し善導することによつて銃に対する偏執的傾向を是正するとともに人命の尊さを知らしめ本件のようなことを二度と繰り返さないよう真人間に復帰させ更生せしめることは十分可能であると説示して居るのである。被告人は温和で素直に見えたのに突如として本件を敢行したのであるが、再度の鑑定の結果に徴してもそこに病的な原因は認め難く、それは被告人の人格の歪によるものと認むべく、その歪の容易ならざることは本件事案を検討説示したとおりであつて、その惨虐な反社会性を露呈した現在においてこれが矯正し得るものとは軽々に断定し難いといわなければならない。

憲法が死刑を容認する所以は、最高裁判所大法廷判決が説示する如く「人の生命は尊貴であり一人の生命は全地球より重い。死刑はまさにあらゆる刑罰のうちで最も冷厳な刑罰であり又誠に已むを得ざるに出ずる窮極の刑罰である。死刑の威嚇力によつて一般予防をなし死刑の執行によつて特殊な社会悪の根元を絶ちこれをもつて社会を防衛せんとするものであり、又個体に対する人道観の上に全体に対する人道観を優位せしめ、結局社会公共の福祉のために死刑制度の存続の必要性を承認したものと解せられる」(昭和二三年三月一二日、同二六年四月一八日判決)のである。近藤宗一並びに保崎秀夫作成の各鑑定書によつて認められる如く、被告人は分裂病質に属する性格異常者であることが認められるが、本件犯行時において事理を弁別しそれに従つて行動する能力が著しく減退していたとは認められないのであり、本件犯行によつて顕現された被告人の反社会的性格を仔細に検討するときはこれを特殊な社会悪として社会防衛のために根元を絶つべきものと認むべく、被告人が犯行時一八歳三月の少年であり、少年法第五一条の法意を尊重して慎重に検討しても、原判決説示の如く被告人を社会人としてわれわれの社会に受入れることを拒否すべきでないとの結論には到達し難いのである。

叙上説示したとおりで、被告人の本件犯行は少年の限界を超えた冷酷惨虐なものであつて正に極刑に処する外ないのにかかわらず、原判決が死一等を減ずべきものとしたのは、その量刑は寛に失し極めて不当であると認めざるを得ないのである。それ故論旨は理由がある。よつて刑事訴訟法第三九七条第三八一条により原判決を破棄し、同法第四〇〇条但書に従い当裁判所において更に判決することとする。原判決が適法に認定した事実(弁護人の主張に対する判断もこれを維持すべきものとする)に法律を適用すると、被告人の判示第四の一の所為は刑法第二四〇条後段に、同第四の二の所為は同法第二四〇条後段第二四三条に、同第四の三の(一)の所為は同法第二二二条第一項、罰金等臨時措置法第二条第三条第一項に、同第四の三の(二)の所為は刑法第九五条第一項に、同第四の四の(一)乃至(三)の所為はいづれも同法第二三六条第一項に、同第四の五の所為はいづれも同法第二二〇条第一項に、同第四の六の所為はいづれも同法第二四〇条後段第二四三条にそれぞれ該当するところ、右第四の五の点は一個の行為で数個の罪名にふれる場合であるから同法第五四条第一項前段第一〇条に従い犯情の最も重い○川○男に対する監禁罪の刑によるべく、以上は同法第四五条前段の併合罪であるところ、右第四の一の罪につき所定刑中死刑を選択処断することとするので、同法第四六条第一項により他の罪についての刑を科せず被告人を死刑に処し、押収に係る主文掲記の(一)乃至(四)のものは右第四の一の犯行の用に供したものであり、同(五)の銃把は同(一)の銃身と一体をなすもの、同(六)、(七)のものは同(一)の従物であり、同(八)乃至(二)のものは右第四の一の犯行の用に供しようとしたものであり、いづれも被告人以外の者に属しないから、同法第一九条第一項第二号、第二項に従つていづれもこれを没収し、原審並びに当審における訴訟費用は刑事訴訟法第一八一条第一項但書に則り被告人に負担させないこととし、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 久永正勝 判事 津田正良 判事 四ツ谷巖)

参考 第一審判決 (横浜地裁 昭四〇(あ)一三八三号・同一五九三号 昭四二・四・一三第三刑事部判決)

主文

被告人を無期懲役に処する。

押収してある(一)銃身一本(昭和四一年押第一号の七一)(二)銃把二個(同号の六九、七〇)(三)空薬きよう一個(同号の七四)(四)弾頭一個(同号の九二)(五)ライフル銃把一個(同号の五一)(六)ズック製銃ケース一個(同号の六七)(七)ライフル望遠照準鏡一個(同号の七二)(八)実包二個(同号の六一)(九)弾丸箱入四一発(同号の六二)(10)銃弾三個(同号の六三)(二)銃弾一個(同号の九四)をいずれも没収する。

理由

第一(被告人の経歴、性格および家庭環境等)

被告人は、昭和二二年四月一五日大工職である父G・S、母G・Mの三男(事実上の二男)として出生し(したがつて、判示犯行当時は一八歳三月余であつて、現に二〇歳に満たない者である。)、東京都世田谷区立△△△小学校を経て同三八年三月同区立○○中学校を卒業した。そして、同三八年四月二〇日ころから同年一〇月中ころまでの間東京都中野区○○通りにある○形自動車株式会社に修理工見習として勤務し、同年一〇月中ころから約二週間程横浜市中区○町に本社のある○○作業株式会社○○町営業所で荷役作業員として稼働し、ついで、同年一二月初旬ころ東京都中央区○○○通にある東京○○海運株式会社に勤務し、同月二一日ころから同会社所属の内航船タンカー第一○○丸に司厨員見習として乗り組み、北は小樽から南に鹿児島まで国内の各港を行き来して同四〇年四月一二日ころ四〇日間の休暇をもらつて下船したが、そのままま帰船せず、同年五月下旬ころ同会社を退職し、以来自宅で徒食していた。被告人の小学校および中学校における成績は終始下位であつたが、その性格は、生来やや無口で、内向的、空想的なところもあつたが、比かく的明るく、温和で、しかも素直であり、前記各職場においても誠実、熱心にその務めを果していた。ところで、被告人は、四人きようだいの末子として出生したため、出生以来親きようだいからかなり甘やかされ可愛がられて育てられた。

職人気質の父G・Sは、母G・Mが死亡するころまでは時には被告人を厳しくしつけることもあつたが、被告人に対する教育についてはほとんど母親まかせに放任していたような状態であつた。ところが、昭和三二年(被告人の小学校五年生時代)にG・Mが死亡したため、G・Sは、翌三三年にT・Kを後妻として迎えることとなつたが、そのころからG・Sは被告人に対する態度もほとんど厳しさを失い、その教育も前にも増して母親まかせに放任するようになり、また、他面G・Kとしても生来無口のうえに継母である立場上被告人に対しては万事につけとかく遠慮勝ちな態度に出るような状態であつたため、被告人が小学校を卒えるころからは、両親とも親身になつてその相談に応じ、あるいはこれに助言を与えるなどしてこれを指導し教育するといつたようなことはほとんどなく全く被告人を放任したような状態のもとで育てるようになつた。また、当時、長男のG・D(当時三一年)は塗装工として働らいていたが、ほとんど被告人の相談相手とはならず、同人は昭和三七年ころ妻帯して別居し、二女G・Y子(当二二年)も飲食店等で働らいていたが、被告人とはほとんど没交渉のまま昭和三九年ころ結婚して別居し、ただ、長女の子G・S子(当二六年)だけがバーなどに勤めるかたわらあれこれとなく被告人の面倒をみていたが、同女は昭和三九年ころ家を出て芸者置屋を経営するようになつた。なお、当時被告人には親しい友達としては中学校時代の友達である○上○資および○江○治の両名のほかはほとんどいなかつた。以上のような状態であつたため、被告人としては、家庭内においてはとくに目立つた不和もなく、一応は平隠な生活を送つてきたとはいえ、その家族間にはたがいに心を割つた精神的交渉のない冷たいふんいきのもとに育てられ、かつ、これに加えて被告人の生来の無口と内向的性格(この性格もかような家庭環境によつて多分に形成され助長されたものともいえる。)とのため、自然に自分だけの閉鎖的な世界のなかで孤独な生活を送るようになり、現在にいたつた。

第二(本件犯行の動機)

被告人は、小学校二、三年生のころから銃に興味をもち、同五、六年生のころには、みづから簡単な銃を作るなどして楽しんでいたが、さらに、中学校二、三年生のころになると、前記のような家庭環境にも影響され、自分だけの楽しみを求めて、一そう銃に対する興味と関心とを深め、一時は銃が射てるとも考えて少年自衛官を志し、また、そのころからマテル社製の回転式モデルけん銃、ついでコルトコプラ、あるいはデリンヂャー、さらに中学校を卒業してからは三二口径のエス・アンド・ダブリューなどというモデルけん銃等を次々と買い求め、これらで射撃の練習をしたり、あるいはこれを改造し、またはこれらでいわゆる「ガンさばき」の練習などを熱心にしてひとり楽しんでいた。ところが、中学校を卒業して○形自動車株式会社に就職するようになると、これらのモデルガンではあきたらなくなり、ついに昭和三八年五月には実際の二二口径マスターボルト五連銃(ライフル銃)一丁(昭和四一年押第一号の五一および七一)を姉のG・S子名義で買い求め、自宅の庭でひそかに射撃の練習などをし、さらに、前記第一○○丸で働らくようになつた際には、これを船内に持ち込み、銃把を手製のもの(同号の六九、七〇)とつけ替え、あるいはひそかに射撃するなどしてひとり楽しんでいた。また、他方被告人は、この間において銃に関する内外の専門の書類、雑誌、あるいはけん銃等を使用する犯罪小説のほか、銃の鑑識、法医学、さらには世界旅行等に関する書籍類にとくに興味を覚えてこれらを次々と買いあさつて耽読し、ますます銃に対する知識と関心とを深め、やがては銃に対して極度の執着心を懐くようになつた。そして、このような生活を送るうちに、前記各種の銃や銃に関する専門図書および犯罪小説などに自然に影響されて、小型で、しかも威力の大きいけん銃に特別の興味と関心とをもつようになり、しかも、その当時には、将来ブラジルへ渡航したいとの希望をもつていたところから、その時のために備えてけん銃による射撃練習を十分にしておきたいとの考えをもつていた際でもあつたため、前記第一○○丸に乗り組むようになつたころから、実際のけん銃を無性に入手したいとの強い欲望にかられ、これに執心するようになつたが、当該けん銃は市販が許されておらず、これを入手するためには正規の方法、あるいは尋常の手段を講じたのではほとんど不可能であつたところから、前記第一○○丸に乗船中のころ、たまたま当時犯罪小説などの影響を多分にうけていた被告人としては、いつそのことこれを入手するためには、自己のライフル銃で警察官を銃撃して抵抗不能にし、所携のけん銃を奪取するのが手つ取り早いものと考えるようになり、ついに、そのころその犯行を決意するにいたつた。

第三(本件犯行の計画とその準備)

そこで、被告人は、警察官からけん銃を奪取する方法等について種々の計画を検討しようと考え、まず、前記第一○○丸に乗船中、前記の犯罪小説などによつて得た知識をもとにして交番あるいはパトロール中の警察官を襲い、抵抗不能にし、あるいは射殺した警察官を隠とく遺棄するという筋書の物語をいくつか創作してこれを抜き書きしたりなどしてその計画を検討し、ついで、同四〇年四月一二日ころ第一○○丸がら下船するや、間もなく右の筋書などにもとづいて皇居前にある警察官警備派出所○○町見張所を下見分し、さらに、そのころS・Wチーフスペシャルという実物大のモデルけん銃を買い求めたうえ、同年五月○日ころには口径一二番SKB二連水平式散弾銃一丁および銃の格納庫を購入するとともに、その後前記ライフル銃の所持の許可名義を(同年四月一五日限りで満一八歳に達したため)姉のG・S子から自己名義に切り替え、これらを使つて射撃の練習に精を出す一方、そのころから同年七月中ころにかけて東京都渋谷区内にある○○派出所、○通り○丁目派出所、川崎市内にある○○駐在所、○○駅前派出所等の下見分をし、さらには小田急電鉄○○駅から○○○○間の国道二四六号線沿い等の下見分をした。その結果、前記各派出所、駐在所等はいずれも周囲の状況その他から所期の計画を実行に移すには不適当であるとし、これに引きかえ本件犯行現場付近を含む大和方面一帯は、警察力も手薄であり、かつ、この方面には米軍基地があつてその関係者が多いため、銃声が聞こえるのも珍しくなく、また、その犯行の態様をみて一応は米軍関係者に嫌疑がかかり、犯行の発覚するおそれも少ないので、この付近に警察官をおびき寄せこれを銃撃して所携のけん銃を奪取する方法による計画をたてこれを実行することにすれば、この方面が犯行の場所としては恰好の場所であると考え、本件犯行現場付近をその犯行の実行場所として選ぶこととした。ところが、たまたま同年七月××、○日ころ中学校時代の友達である○上○資および○江○治らと翌月の○日から△日にかけて伊豆下田方面にドライブに出掛ける約束をしたところから、その際下田付近の海上において強奪したけん銃で試射したいとの欲望を強く懐くようになつたため、いよいよ前記犯行の計画をたてこれを実行に移そうと考え、その犯行の方法についてさらに検討を加えた結果、結局一一〇番の電話を使用して警察官を犯行現場におびき寄せ、これを遠方に待機していて前記ライフル銃で狙撃して抵抗不能にし、あるいは、もし、抵抗するような場合にはこれを射殺して所携のけん銃を奪取したうえ、外人を脅してその運転する自動車に抵抗不能等になつた警察官を乗せてこれを人知れない富士五湖あるいは中津川溪谷方面に隠とく遺棄し、途中で外人を木に縛りつけるなどし、また、自動車は適当な場所へ乗り捨ててくることにすれば、前記犯罪小説などで知識を得たいわゆる「死体なき殺人」としてほとんど犯行が発覚するおそれはないものと考えたところから、結局、このような方法による犯行の計画をたててこれを実行に移すこととした。そこで、さらにその犯行の具体的な計画をたてるため、同月△△日正午過ぎごろ、藤沢方面の五万分の一の地図、ボールペンおよびメモ用紙等を携えて自宅を出発して本件犯行現場付近におもむき、犯行場所の具体的な選定、その付近の地理的関係、関係個所間の歩行等に要する時間、鶴間駅前所在の交番の状況、犯行後の逃走経路および外人の運転する自動車の交通量等について綿密周到な下調べをしてこれを確認し、その都度必要事項を右の地図あるいはメモ用紙等に記入して他日実行する犯行の計画に少しの遺漏もないように具体的かつ綿密な計画を整えてその場を引き揚げ帰宅した。そして同夜自室でテレビを見ながら同日実施した下調べの状況などを思いおこすうち同日午後一一時過ぎころになるや、右のように犯行の計画を具体的に整えた以上いよいよこれを翌○○日に実行に移そうと決意し、まず、電話で子供らの空気銃のいたずらに対する取締を口実に警察官を犯行現場におびき寄せることとし、それに使用するためにあらかじめ弾こんに見えるような穴をあけた標的用紙(同号の七三)を作るとともに、右電話による送話の文言を考えてこれをメモ用紙に筆記し、ついで、手製の銃把(同号の六九および七〇は、判示第四の一の犯行によつて割れたもの)をつけた望遠照準鏡(同号の七二)装着の前記ライフル銃(同号の七一はその銃身)を隠し持ち易いように新聞紙に包み、同銃弾五〇発(同号の六一ないし六三および九四がその一部)および指紋の付着を防避するための手袋(同号の六四および一二四)等を用意して周到に右犯行の準備を整えた。

第四(罪となるべき事実)

一、被告人は、前記犯行の計画にもとづいて昭和四〇年七月○○日午前八時過ぎころ、あらかじめ準備しておいた前記ライフル銃、同銃弾、および標的用紙等を携えて自宅を出発し、小田急電車に乗つて○○駅に下車し、そこから厚木方面に通ずる国道二四六号線を歩いて、同日午前一〇時ころ、同国道上の○○○ケ丘バス停留所横から北方に通ずる道路上を北へ約一〇〇メートル程入つた同道路脇の大和市○○○××××番地付近の山林内におもむき、同山林内の立木に前記標的用紙を取り付けるとともに、その付近で前記ライフル銃に銃弾五発を装てんしたうえ、再び○○駅前付近まで戻り、同駅前の公衆電話ボックスから一一〇番に電話して大和警察署通信司令室長の石○寛を呼び出し、同人に対し、あらかじめ用意しておいた文言にしたがつて、「○○○ケ丘にくる途中二、三百メートルのところで子供が四、五人空気銃で的をパンパンうつているので危険だから注意してください、自分は近所のものです」などと申し向けたうえ、急きよ同駅前からタクシーに乗車し、右標的を設置した場所付近に引き返そうとしたがこの運転手らによつて犯行の発覚するのをおそれたため、前記国道上からさきのバス停留所横の道路より一路手前(東寄り)の道路を北に入つて間もない個所にある外人ハウス前付近でタクシーを降り、急いで右標的を設置した場所付近におもむこうとして、同日午前一〇時五〇分ころ、さきのバス停留所横の道路上を右標的設置場所付近から北方へ約一四一メートル余程距てた個所(神奈川県高座郡○○町○○×××番地の(イ)先道路上)を北から南に向け歩いていたところ、思いのほか早くその付近で前記通信指令室長から空気銃のいたずらに対する取締の指示をうけてスクーターで出動してきた大和警察署鶴間駅前警察官派出所勤務の巡査○所○雄(当時二一年)に出会うや、直ちにスクーターから下車してきた同巡査より前記ライフル銃を入れた新聞包を発見されて「それは何んだ」などと質問されたので、とつさに、犯行の場所および銃撃の方法が計画どおりには運ばなかつたものの、ことここにいたつた以上は、かねてからの計画にしたがつてけん銃を奪取するためには同巡査を射殺するよりほかはないものと決意し、いきなり携えていた前記ライフル銃をいわゆる「腰だめ」の姿勢に構えて同巡査の上体部を狙つて一発発射し、さらに、右の銃撃によつてその場に皆倒しながら所携のけん銃を抜き、あるいは右ライフル銃の銃身を掴んで必死に抵抗しようとする同巡査の後頭部を右ライフル銃の銃把部分で三回程殴打したうえ、ひん死の状態になつていた同巡査をその付近の道路脇の林の中に引きずり込み、同所において苦しみながら医師の手当などを求める同巡査より同巡査所携の実包五発装てんの警察官用四五口径SW式けん銃一丁(同号の八四)、警察手帳一冊(同号の七八)、制服ズボン一本(同号の八三)、帯革一式(同号の八二)、手錠一個(同号の八六)、捕じよう一本(同号の一二六)およびヘルメット一個(同号の一二五)等を強取したが、その際、右の銃撃等によつて同巡査に左胸部盲貫銃創および頭部挫創等の重篤な傷害を与え、よつて、同巡査をして同日午後二時三五分ころ、同市○○○××××番地の○○市立病院において右の盲貫銃創による出血のため失血死させて殺害し、

二、右の犯行後、同巡査を計画にしたがつて他に隠とく遺棄しようと一応は考えたものの、結局これを断念し、警察官を装つてそのまま逃走しようと考え、同巡査より強取した警察官用のズボン、帯革、およびヘルメットをみづから着用し、右警察官用のけん銃を同帯革のサック内に納め、警察手帳、手錠、および捕じよう等を携行してその場を立ち去ろうとしたところ、同日午前一一時二〇分ころ、前記犯行現場より南方へ約四一メートル程距てた三叉路付近に同じく前記通信指令室長の指示によりパトカー(大和移動)で出動してきた大和警察署外勤係の巡査○原○雄(当時二三年)および同巡査○山○広(当時二七年)の両名が右のパトカーをその付近で一たん停車させて下車し被告人の所在する方に向け歩いてくるのを認めるや、とつさに同巡査両名を右のけん銃で脅迫し、同人らから所携の警察官用のけん銃および同実包等を強取し、さらにパトカーを強取してこれを同人らに運転させて逃走し、もし、同人らがこの間において抵抗すればこれを射殺してもやむを得ないものと考え、一たん前記犯行現場の北方約二四メートル付近の道路脇に隠れた後、両巡査が近づくや、いきなり道路上に飛び出し、両巡査にこもごも所携のけん銃を突きつけ、「手を首の後ろに廻わせ」、「けん銃を渡せ」などと申し向けて脅迫し、両巡査をそれぞれパトカーの両側に追い戻したうえ、「パトカーに乗れ」などと申し向けて同巡査らの反抗を抑圧し、両巡査から警察官用のけん銃、同実包およびパトカー等を強取しようとしたが、○原巡査がすきをみて被告人に対し所携のけん銃を構えて発砲したため、こうなつた以上は同巡査を射殺してもやむを得ないものと決意し、即座に同巡査に対し所携のけん銃を三発位発射し、うち一発を同巡査の下腹部に命中させて逃走するにいたつたため、右両巡査からけん銃等を強取する目的を遂げず、かつ、その際右の銃撃によつて○原巡査に対し全治約一個月を要する下腹部貫通銃創の傷害を負わせたにとどまり、同巡査を殺害するにはいたらず、

三、ついで右逃走中、同日午前一一時三〇分ころ、前記○○町○○×××番地の○坂○太○(当時三三年)方にいたり、同人に対し警察官を装い、「いまこの辺で射ち合いがあつて、犯人に逃げられたから車を出してもらいたい」と申し向け、その旨信じた同人をしてその所有にかかる軽四輪乗用貨物車(マツダ六神う○○○○号)を運転させこれに乗車して逃走中、同日午後零時五分ころ、東京都町田市原町田二丁目五番地所在の東京警視庁町田警察署原町田二丁目警察官派出所前十字路付近において、○坂が被告人より聞いた事件のその後の情報を同派出所に聞きに行こうとして自動車を一たん停車させて下車したところ、被告人もこれにつづいて下車するが早いか○坂の後方からその左腕を掴まえて同人の行動を封じようとしたが、たまたまその際大和警察署管内で発生した前記事件の犯人は○坂の自動車で逃走中である旨の通報をうけていた同派出所勤務の巡査○藤○夫(当時二〇年)が右停車した自動車に乗車してきた被告人をみて前記事件の犯人であると認めてこれに近付いて逮捕しようとしたところ、

(一) やにわに前記けん銃を左腕を掴まえたままの坂の右脇腹に突きつけ、二、三回こづくなどして、同人の生命、身体等にどんな危害を加えるかもしれないような態度を示して同人を脅迫し、

(二) さらに、○藤巡査に対し、右のように○坂の脇腹にけん銃を突きつけながら、「近寄るな、近寄ると射つぞ」などと申し向けたうえ、同巡査にも銃口を差し向け、同巡査らの生命、身体にどんな危害を加えるかも知れないような態度を示して同巡査を脅迫し、もつて、同巡査の前記公務の執行を妨害し、

四、(一) つづいて、同日午後零時五分過ぎころ、前記十字路付近で右のように○藤巡査を脅迫中、たまたま○川○男(当時二九年)の運転する乗用車(トヨペットコロナ、相模五ほ○○○○号)が同十字路付近にさしかかつて一たん停車したのを目撃するや、とつさにその自動車を強取して逃走しようと考え、やにわに右自動車の窓越しに同人に対し前記けん銃を突きつけ、「さわぐと射つぞ」と申し向けて同人を脅迫してその反抗を抑圧し、同自動車に乗り込んだうえ同人に命じて発進させ、これを自己の実力支配内に移して同自動車(○川○平所有、時価約六八万円相当)を強取し、

(二) さらに、前記のように○藤巡査から逮捕されようとし、また、すでに被告人の逮捕方を各警察署に手配されていることを察知するや、次々に自動車を強取して乗りかえながら逃走しようと考え、同日午後一時一〇分ころ、川崎市○××××番地先の多摩川堤防上の道路上において、○村○一(当時二三年)が普通貨物自動車(ニッサン・セドリックライトバン足四あ○○○○号)を停め同車内で休息しているのを目撃するや、これに接近し、同自動車の窓越しに同人に対し前記けん銃を突きつけ、「車をとりかえてくれ」などと申し向けて同人を脅迫してその反抗を抑圧し、同人をその自動車から下車せしめ、○川に命じて同人とともに同自動車に乗り込んでこれを自己の実力支配内に移して同自動車(○栄運送株式会社所有、時価約四〇万円相当)を強取し、

(三) ついで、○川に命じて右自動車を運転させながら逃走中、同日午後二時ころ、東京都小金井市○○町○の×××番地都立○金○公園駐車場東側道路上において、後○久(当時三一年)が乗用車(ニッサン・セドリック五さ○○○○号)を停め同車内で○木○○子(当時二九年)とともに休息しているのを目撃するや、これに接近し、同自動車の窓越しに前記けん銃を同人らに突きつけ、「おれは強盗だ、ドアを開けろ」などと申し向けて同人らを脅迫してその反抗を抑圧し、○川に命じて同人とともに同自動車に乗り込んだうえ後○に命じて発進させ、これを自己の実力支配内に移して同自動車(後○久所有、時価約二二万円相当を)強取し、

五、前記のように強取した自動車で逃走するに際し、自己の犯行が警察官に通報されることを防止し、かつ、右○川、後○らを使つて自動車を運転させるため、同人らを自動車内に監禁しようと考え、前記四の(一)記載の日時、場所において○川から前記自動車を強取するや、同人にけん銃を突きつけて、「変なまねをすると射つぞ、射てば頭はふつ飛ぶぞ」などと申し向けて脅迫し、その脱出を不能ならしめて同自動車内にとじ込め、同人に命じて同自動車を運転させ、つづいて、前記四の(二)記載の日時、場所において前記○村からその自動車を強取するや、前同様の方法で同自動車に○川を移乗させてその脱出を不能ならしめてさらにこれに運転させ、ついで、前記四の(三)記載の日時、場所において後○からその自動車を強取するや、さらに○川を前同様の方法で同自動車に移乗させてその脱出を不能ならしめて前に引き続いて同自動車内にとじ込め、また、前記四の(三)記載の日時、場所において後○からその自動車を強取するや、同人および同乗中の○木にけん銃を突きつけて、「おれは警察官を射つてきた、変なまねをすると射つぞ」などと申し向けて同人らを脅迫し、その脱出を不能ならしめて右のようにこれに移乗させた○川とともに同自動車内にとじ込め、後○に命じてこれを運転させ、もつて、○川については、同日午後零時五分過ぎころから、後○については、同日午後二時ころから東京都渋谷区○○町××番地「○○○○銃砲店」こと○○○○商事株式会社前で前記自動車を停車させて被告人みづからが下車した同日午後六時ころまでの間、また、○木については、同日午後二時ころから同区○○○丁目××××番地先付近で同人を前記自動車から下車させた同日午後三時過ぎころまでの間それぞれ前記三名を監禁し、

六、前記のように後○からその自動車を強取しこれに同乗して逃走中。じ後の逃走に備えるため、かねてから銃砲等を買い入れたりなどして店の様子を知つていた前記「○○○○銃砲店」に押し入つて銃や銃弾を強取しようと考え、閉店間際のころを見計つて同日午後六時ころ、前記後○に命じて運転させていた自動車を同店前の○○消防署脇付近に停車させ、右後○、○川の両名に対して逃げたら射つぞと脅して同人らを同車内に残留させ、みづから同自動車より下車して同店内におもむき、同店店員森○子(当時二一年)と応対してその機会をうかがつているうちに、右後○らが前記自動車内よりのがれ出たのを認めるや、突如同店店員○田○志(当時一六年)、同森○子、同○田○郎(当時六五年)および森○子の妹森△子(当時一六年)らに対し、前記けん銃を突きつけ、「おれは警察官二人を射つてきた」「豊和のライフルをもつてこい」「本当に射つぞ」などと申し向けて同人らを脅迫してその反抗を抑圧し、そのころから同日午後七時過ぎころまでの間にわたつて豊和式ライフル銃(三〇口径)一丁、これにあう銃弾五発、同ライフル銃用三〇発装てん可能の弾倉一個(同号の一〇四)、レミントン七四二型ライフル銃(三〇口径)一丁、ウインチェスター、モデル一〇〇型ライフル銃(三〇口径)一丁、右三丁のライフル銃にあう三〇口径ライフル銃弾等合計五一七発(同号の九六、九九、一〇二、一〇三、一〇五、一〇九ないし一一一、一一三ないし一一五、一一七ないし一二〇)、弾薬箱一個(同号の一〇一)、前記警察官用けん銃弾一発(その弾頭一個が同号の九〇)(以上ロイヤル銃砲店、または同社社長○達○康所有、時価総計四一万円位相当を前記○田らに出させていずれもこれを強取し、かつ、この間あるいはその機会の連続中において、前記自動車からのがれ出た後○らの届出によつて被告人の逮捕に向つた武装あるいは非武装の警察官らがパトカー、または機動車などに乗つて同店の周囲に多数到着し、報道関係者、一般人らもこれに混じつて同店を包囲するや、これらの警察官を近づけないようにしてその包囲を突破し逃走をはかるため、銃をこれらの警察官その他に差し向けて威かく射撃をし、これが場合によつてはこれらの警察官、あるいはその他に命中してこれを射殺するようなことになつても仕方がないものと考え、前記○田、森○子らを楯にして同店出入口付近から、あるいは同店内から同店前の○○消防署に西隣する○○区役所に通ずる道路上および国鉄○○駅より○○方面に通ずる道路(補助二四号線)上、あるいはこれらの道路脇付近でパトカー、または建物その他を遮へい物としつつ被告人を包囲してその動静をうをがいながらこれを逮捕しようとする警察官、あるいはこれに混じつてこれらの状況を取材し、あるいは見物する報道関係者または一般人に対し、それぞれ豊和式ライフル銃で九七発位レミントン七四二型ライフル銃で四発位、ウインチェスターモデル一〇〇型ライフル銃で七発位、前記けん銃で二発を発射し、別表記載のとおり、○野○郎ほか一五名に対し同表記載の日時、場所において銃弾あるいはその弾片を命中させたが、それぞれ同表記載の傷害を負わせたにとどまり、同人らを殺害するにはいたらなかつた

ものである。

第五(証拠の標目)(編省略)

第六(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、被告人は本件犯行当時心神耗弱の状態にあつた旨主張するので、この点について判断する。

判示各証拠は鑑定人近藤宗一作成の鑑定書および証人近藤宗一の当公判廷(第一八回)における供述を総合すると、被告人は、生来温和で内向的性格を有していたが、成長するにしたがつてその家庭環境の影響により一そうこれが助長されるとともに、銃に対して異常な関心を懐くようになり、やがてはこれに対して偏執的傾向をもつようになつたこと、および被告人は、平素の顕著な分裂的気質から銃に対する偏執性がやがて将来妾想に発展して精神分裂病に罹患する蓋然性があり、また、脳波に異常波が認められ、脳内にはてんかん性の病的過程が存在していて近い将来においててんかんを発病する蓋然性があることなどが認められる。

しかしながら、判示各証拠によると、本件犯行は、判示は認定したような動機から判示に認定したような計画と準備とのもとに判示認定のような経過で実行されたものであつて、その動機も自然的かつ合理的に理解することができるし、また、その計画、準備および実行行為もすべて合目的的に整備され遂行されたものであることが認められる。すなわち、判示各証拠を総合すると、本件犯行の動機は、被告人が判示に認定したように銃に対して異常な興味と執着心とをもつようになり、やがてけん銃を入手したいとの強い欲望にかられるようになつたが、正規の方法、あるいは尋常の手段ではこれを入手することがとうていできなかつたところから、警察官を銃撃して所携のけん銃を奪取しようと決意するにいたつたものであつて、このような決意を生ぜしめるにいたつた右の思考過程には幾分異常性を疑わしめる点もないではないが、前記各証拠によつて認められる本件犯行の計画と実行行為との遂行の可能性、ならびに現実にさしたるさてつをきたすこともなくこれを遂行し一応その目的を遂げた経験とにてらして考えると、決してこれに不自然不合理な点が存するとは認められないし、また、本件現行の計画および準備についても、被告人は、まず、交番の襲撃を考え、判示のように各所の警察官の派出所または駐在所等を予想される犯行の順序と経過とをたどつて下見分したが、いずれも周囲の状況等から判断して不適当であるとし、ついで、警察官をおびき寄せる方法によつて犯行を実行しようと考え、本件犯行現場付近等を下見分し、その結果、判示のような理由で同所付近が犯行現場に適当であると判断して同所付近を犯行場所として選定したうえ、付近の地図、メモ用紙などを用意してさらに同所付近を下見分し、判示のように具体的な犯行場所の選定、犯行の方法、その付近の地理的関係、関係個所間の歩行等に要する時間、判示○○駅前の交番の状況、犯行後の逃走経路その他を綿密周到に調査し、予想される犯行の順序と経過とをたどつて具体的にその計画を練り、判示のように本件犯行の準備を整えるにいたつたものであつて、右数次の犯行計画中には多少の未熟さや粗ろうさもうかがわれないことはないが、右一連の犯行計画、ことに本件犯行自体についての具体的な計画とその準備については、決してその間に矛盾、どうちゃくが存したり、あるいは荒唐無けいと思われるようなところは発見できず、極めて具体的であり、かつ、合目的的であつて、優に実現可能のものであることが認められ、さらに、本件犯行の実行行為も、判示第四の一の犯行については、犯行の場所と銃撃の方法とについてその計画との間に多少のそごをきたしたとはいえ概ねその計画どおりに実行して一応けん銃奪取の目的を遂げたものであつて、その間に不可解、不合理な言動は全くなく、また、その後における判示一連の犯行行為についても当初の計画とは異つた犯行経過をたどるにいたつたもののその間における被告人の言動に奇異な点や了解不能の点は全くなく、すべて極めて合目的的に遂行せられたものであることが認められる。

しかも、また、被告人の司法警察員ならびに検察官に対する判示各供述調書によると、被告人は、司法警察員ならびに検察官に対して本件犯行の動機、本件犯行にいたるまでの自己の言動、ことに本件犯行の計画とその準備、本件犯行直前の模様、および本件の一連した犯行の経過とその模様等についてその記憶をたどりながら順序を追い合理的に逐一詳細に供述していることが認められる。

そこで、以上認定の事実に判示各証拠によつて認められる被告人の判示犯行時までにおける生活歴、平素における心身の状態、および被告人の当公判廷における言動ならびに前記の鑑定書および近藤証人の供述を合わせ考えると、被告人は、本件犯行当時において、顕著な分裂的気質と銃に対する偏執的傾向とを有し、この偏執的傾向から将来精神分裂病に罹患する蓋然性があり、また、将来てんかんを発病する蓋然性を有していたものとはいえ、当時このためにその精神状態に障碍があつて、是非善悪を弁護し、これにしたがつて行動する能力が著しく減退していたものとはとうてい認められない。

よつて、弁護人の右主張は採用しない。

第七(法令の適用)(編省略)

第八(量刑の理由)

判示各証拠のほか当裁判所が取り調べた一切の証拠を総合して以下本件犯行の情状等を考察し、量刑について考える。

本件一連の犯行は、銃に対して異常な興味と関心とをもつていた被告人が尋常には入手できなかつたけん銃を偏執的にまで入手したいとの強い欲求にかられたところから警察官を銃撃してそのけん銃を強奪しようと考えたのが動機となり、まず、判示第四の一記載のとおり、○所巡査を犯行現場におびき寄せてライフル銃でこれを銃撃するなどして所携のけん銃等を強取し、ついで、逮捕をまぬがれ逃走をはかるため、判示第四の二以下の犯行を重ねるにいたつたものであつて、いわば本件犯行は、被告人の右のようなけん銃に対する偏執的な欲求をみたそうというだけの単なる利己的な動機から敢行されたものであるが、その犯行の結果たるや、被害者の一人については何よりも尊い人命を奪い、他の一人については人命を奪わんばかりの傷害を負わせ、さらには無関係な一般市民の生命、身体に重大な危険を感ぜしめ、一般社会に多大な不安と恐怖の念を与えるというような重大な結果を生ぜしめるにいたつたものであつて、まさに本件犯行は、目的のためには手段を選ばず、自己の欲求をみたすためには他人の尊い生命その他をぎせいにしても全くこれをかえりみないという恐るべき自己中心的な人命軽視の考え方にもとづいた極めて危険性の大きい反社会的な行為といわなければならない。しかも、本件一連の犯行の発端でもあり、また量刑判断の核心となるとも認められる○所巡査に対する犯行(判示第四の一)は、被告人が第一〇〇丸に乗船中から犯行前日にいたるまでの長期間にわたつて犯行の場所および方法、犯行後も逃走経路等について綿密周到な計画を練り、その計画にもとづいて敢行された極めて計画的な犯行であるばかりでなく、その犯行の方法ないし態度においても、あらかじめ、用意した計画と準備とにもとづいて公共の安全と秩序の保持とを任務とする警察官の○所巡査を、しかも白昼の真中に、犯行現場におびき寄せ、同巡査から職務質問をうけるや、有無をいわさず、けん銃を奪取するためには射殺するほかはないものと考え、いきなり所携のライフル銃で同巡査の上体部を狙撃し、さらにその場に皆倒しながら抵抗しようとする同巡査の頭部をライフル銃の銃把(もつとも手製のもの)でこれが割れる程強打し、つづいて同巡査を付近の林の中に引きずり込んで苦悶しながら医者の手当などを求める同巡査から所携のけん銃のほか警察官用のズボンその他をはぎ取るなどしてこれを強取し、同巡査を殺害するにいたつたものであつて、まさに成人を凌ぐその好計と大胆不敵さ、残忍さは言語に絶するものがある。被害者である○所巡査としては、一一〇番の電話連絡にもとづく現場出動の指示をうけたため、これが被告人の奸計によつて死地におもむくものとはつゆ知らず、ひたすら空気銃をいたずらする子供らと付近住民の安全を願つて現場に急行したものであつて、同巡査は、もつぱら誠実に自己の職務を果たそうとした何んの落度もない善良な警察官であつたのであり、これが被告人の奸計によつていわば死地に急行し無惨な最期を遂げるにいたつたものである、被告人のこの奸計による犯行の悪質さもさることながら、同巡査の精神的苦痛はもとよりのこと、その無念さ、激憤の情、まことに筆舌につくしがたいものがあつたであろう。同巡査は、○○○消防本部に勤務する父○所○治の三男として出生し、立川市にある○和○○工業高等学校を卒業後、塗装工場に勤務し、昭和三九年四月警察学校に入学し、同校卒業後、同四〇年四月から大和警察署外勤係として判示鶴間駅前派出所に勤務していたもので、性格は素直で責任感が強く、警察官として将来を嘱望されていたものであり、これが一瞬にしてこのような災厄に遭い不慮の死を遂げるにいたつたのであるから、その遺家族の悲嘆と精神的苦痛とは実に計り知れないものがあつたと考えられ、同巡査の父○治が証人として当公判廷(第一二回)において「犯人を極刑にして欲しい」旨を述べた心情も了察するに余りあるものがある。

また、さらに被告人は、逮捕をまぬがれ逃走をはかるためとはいえ、○所巡査に対する犯行につづいて、その現場にパトカーで急行してきた○原、○山の両巡査に対し、○所巡査より強奪したけん銃を差し向け、同巡査らから所携のけん銃等を強取しようとしたが、○原巡査からすきをみてけん銃を発射されるや、即座にこれを射殺してもやむを得ないものと考えてこれに応戦しけん銃を三発位発射し、うち一発を同巡査の下腹部に命中させて逃走するにいたつた(判示第四の二)ものであり、僥倖にも○原巡査はその一命をとり止めたとはいえ、その犯行の危険性と大胆、悪質さには慄然たるものを感じさせられる。

そればかりでなく、被告人はさらに逃走をはかるため、警察官になりすまして○坂に自動車を出させて運転させ、○藤巡査より逮捕されそうになるや、○坂および同巡査にけん銃を差し向けて脅迫し(判示第四の三の(一)(二))、そのうえ同巡査の面前で○川より自動車を強取して逃走し、以後被告人の逮捕に躍起になつている警察官らを尻目に○村、後○らから次々と自動車を強取してこれに乗り換え、○川、後○らを車内に監禁し、これらの生命等に重大な危険を与えながら逃走をつづけた(以上判示第四の四の(一)ないし(三)、同第四の五)ものであつて、これら一連の犯行もまさに犯罪小説もどきの実に大胆で悪質かつ知能的な犯行というべきであり、そして最後には、じ後の逃走に備えるため、銃および銃弾を強取しようと考え、判示第四の六記載のとおり、○○○○銃砲店に押し入り、約一時間二〇分もの長時間にわたつて、同店からライフル銃や銃弾等を強取したうえ、被告人逮捕のため同店を包囲した多数の警察官らに対し、その包囲を突破して逃走するため、威かく射撃をし、その結果警察官らを射殺するようなことになつても仕方ないものと考え、同店店員らを楯としてライフル銃などで合計一〇〇発以上もの多数の銃弾を四方に射ちまくつたのであるが、ついに同店前付近で逮捕されるにいたつたものであつて、この○○○○銃砲店における犯行も、判示のように多数人に傷害を負わせたにとどまり、幸い射殺する結果こそは生じなかつたが、このために数百名位にものぼる多数の警察官のほか、パトカー、機動車、散水車、照明車その他が出動し、付近の交通は一時まひ状態となり、さながら市街戦の様相を呈するにいたつたものであつて、実に常規を逸した大胆不敵、危険極わまる悪質な犯行である。しかも、以上一連の犯行によつて付近住民に深大な不安と恐怖の念を与えたばかりでなく、一般社会に異常な衝撃を与えるにいたつたことはもちろんであつて、これら住民や一般社会に与えた影響はまことに重大である。

以上被告人の本件一連の犯行の情伏、ことに○所巡査に対する犯行の恐るべき自己中心的、人命軽視の考え方に根ざす反社会的性向、右犯行の恐るべき計画性、右犯行の大胆不敵さ、残忍非道さ、右犯行による被害者本人はもちろんのことその遺家族に与えた想像に絶する精神的苦痛、これが付近住民および一般社会に与えた影響の重大性、また○原巡査に対する犯行の大胆悪質さ、さらに○○○○銃砲店における常規を逸した危険極わまる大胆悪質な犯情、その被害者らに与えた精神的苦痛、これが付近住民のみならず一般社会に与えた影響の重大性等を考えると、被告人の刑事上の責任はまことに重かつ大であつて、極刑をやむをえないものといわなければならない。

しかしながら、一方ひるがえつて本件犯行を決意するようになつた経緯、本件犯行の模様、犯行後の状況その他一切の事情をつぶさに検討すると、○所巡査に対する犯行をはじめとし、これにつづく一連の犯行は、何人をも凌ぐような恐るべき計画のもとに敢行された大胆不敵、悪質非道なものではあるが、何にせ被告人は当時満一八歳三月余(現在満一九歳一一月)の少年であつて思慮分別も未熟であつたのであり、そのうえ、生来の内向的性格が判示のような家庭環境から一そう助長され、親きようだいとはほとんど精神的交流のない閉鎖的な生活を送るようになり、いきおい自分だけの楽しみとして小学校当時から興味をもつていた銃に対して一そうの興味と関心とを抱くようになり、判示のように各種のモデルガンやライフル銃を買い求め、あるいは銃に関する専門図書、銃を使用する犯罪小説等を次々と買いあさつて耽読し、ひとり楽しんでいるうちに、やがては自分が銃をもつてさえいれば万能であるとも誤信するようになり、いよいよ銃、ことに小型で威力の大きいけん銃に関心を奪われこれを入手することに極度の偏執的傾向をもつようになり、ついに、けん銃欲しさの余り、犯罪小説等に多分に影響され○所巡査に対する犯行を決意するにいたつたものであつて、いわばこの犯行は、被告人において思慮分別が未熟であつたのに加えて、けん銃に対して極度の偏執的傾向をもつていたことと銃を使用する犯罪小説等によつて多大な影響をうけたことなどから、是非善悪の弁識力に著しく欠けるところはなかつたものの、現実の社会に対する認識が漸次稀薄となり、現実の社会と小説の社会(いいかえれば、現実と空想)とを分化し識別する能力がやや低下した状態のもとにおいてその計画をたて、準備を整え、実行行為に及んだものであることが認められるのであり、また、本件○所巡査に対する犯行は、前記のように極めて計画的で大胆かつ残忍非道であつてその結果はまことに重大であるが、もともとその計画としては意欲的、かつ確定的殺意を懐いていたものではなく、まず第一にはけん銃を奪取するのが目的であつてこのためには警察官の肩辺りを狙撃し抵抗不能にすればその目的を達するものと考えていたのであるが、(もちろん、その結果警察官が死亡し、あるいは犯跡隠ぺいのため同警察官を他に隠とくしその結果死亡するにいたるべきことも認容していたし、また当初から警察官が抵抗するような場合など時と場合によつては射殺するもやむを得ないとも考えていたのであるが)判示のように計画とは異り○所巡査より面前で職務質問をうけるにいたつたため、急にこれを射殺するほかはないものと考え同巡査を銃撃するにいたつたものであり、またその後における銃把による殴打も、右銃撃により興奮状態にあつた被告人において、○所巡査がけん銃を抜き、あるいは被告人のライフル銃を掴むなどして抵抗するような態度を示したため、思わずそのような行為に出るような結果となつたものであり、また、これにつづく一連の犯行は、すべて逮捕をまぬがれ逃走をはかるために出た行為であり、○原巡査に対する犯行も同巡査に対する銃撃は同巡査に対して応戦したものであつて、また僥倖にも同巡査において一命を取り止めており、さらに、その後○○○○銃砲店にいたるまでの数次の犯行も大胆かつ悪質ではあるが幸いそれ程の実害もなくすんでおり、また、○○○○銃砲店における犯行も、前記のように実に常規を逸した大胆悪質な犯行であつてその結果も重大であるが、同店のうけた実害も幸い多大でなく、また同店における被告人の数知れない銃撃も警察官らによる包囲を突破し逃走するために、これらに対し、場合によつては射殺するにいたるべきことは認容はしていたものの主として威かく射撃をするためにしたいわゆる未必的殺意にもとづいてなされたものであつて、不幸多数の負傷者を出すにはいたつたが、幸い一人の死者も出なかつたこと等が認められる。そして、また被告人は、逮捕されて後警察官、検察官、家庭裁判所調査官および家庭裁判所裁判官等に対して終始○所、○原の両巡査ならびに○○○○銃砲店における警察官らに対する犯行についてその殺意を否認していたばかりでなく、家庭裁判所調査官に対し自己の犯行に対する反省や苦悩を示すような言葉はほとんど述べず、銃に関する話に特別興味をもち将来再び銃を射つてみたいなどと述べており、また、検察官に対しては「本件犯行についての感想はひどいことをしたということと、世の中を騒わがせたということですが、後悔しているかどうかわからない」旨を述べていることが認められるのであつて、これらによれば被告人が当時自己の罪に対する認識や深い悔悟の念あるいは自己の犯した重大な罪に対する苦悶の色などが果してあつたのかどうか甚だ疑わしかつたのであるが、本件について当裁判所が昭和四〇年一一月二七日審理を開始し、審理を重ねるうち、同四一年九月一四日の第一三回公判廷において被告人がとくに弁護人を通じて二個の事項について発言を求め、その時まで前同様依然殺意を否認していたのを改め「まず、第一に検察側の起訴事実は全部認める、つぎに、第二としては、逮捕されて以来長い間考えてきたが、○所巡査やその他迷惑をかけた人々に申し訳ないと思つている、自分は現在少年であるが一人の人間として裁判してもらいたい、今回の事件については刑の重い死刑に処してもらいたい、死刑以外の刑に処せられ再び社会に戻った際には、なお現在において銃をもちたいという気持に変わりはないから同種事件を繰り返さないという自信はない、そうなつた場合には○所巡査らに申し訳ない、真剣にこう考えるようになつたのは昭和四〇年終りころからである、もちろん○所巡査には初めから申し訳ないと思つていた、自分に対してはいわゆる目には目であり、報復的な刑罰の死刑が適当である」旨供述している(さらに、同四二年三月一四日の第一九回公判廷において検察官の論告に先だつて「現在の気持は前(第一三回公判廷における供述を指す。)と同じです、世間に対し大変悪いことをしたと思つている」皆さまの供述を再確認する趣旨の供述をしている。)のであるが、被告人のこの供述を単なるうわべだけの申し訳、あるいは裁判所に対するけん制、さらには長期拘禁の影響による自暴自棄的発言などであるとして簡単にこれをあしらつてしまうことができるものであろうか。いな、むしろこれを本件審理の経過、ことに右供述のなされた直前である第一二回公判廷において○所巡査の父○治が証人として種々被害者側の事情、被害感情等についてるる供述した後、「犯人を極刑にして欲しい」旨を供述している事実、その際これを聴いていた被告人の態度、前記供述をした際における被告人の供述態度、およびその供述内容等にてらして考えると、これが長期拘禁に基因する将来の生活に対する自信の喪失、あるいは自暴自棄的心境等による影響が必ずしも絶無とはいえないにしても、右の供述は、被告人において真に自己の罪の如何に深くして大きいかを悔悟し心の底よりこれを反省し、死をもつてひたすらその罪の償いをしたいとの心境を真剣に述べたものと認めるべきであつて、ここに被告人の現実に対するきびしい認識、自己の罪に対する心からの悔悟、人間性ないし人間的良心への目覚めを容易に見出すことができるのである。もつとも、被告人は、右供述のなかで、「銃を持ちたい気持に変わりはないから再び同種事件を繰り返さないという自信はない」旨いささか看過することのできない供述をしているが、右は、「死をもつて自己の罪の償いをしたい」という前記供述を強く支持し補強するための発言であり、また、裁判官の「銃がいくら好きでも人を殺傷するということは自分の考えで避けられるのではないか」との問いに対し「避けられません」と答えているものの右はこのような場合年少者によく見られる思いつきのその場限りの発言と同種のものとも解せられるので、右のような供述があるからといつて被告人の前記供述全体を前説示のとおり理解するのに何んの支障もないというべきである。

さらに、被告人は、判示に認定したように、末子として出生し親きようだいからかなり甘やかされ可愛がられて育てられたが、両親からはほとんど放任されたまま家庭教育も満足にうけず、また心を割つた精神的交流もない冷たい家庭環境のもとに育てられたため、生来の内向的性格とあいまつて自然に閉鎖的な生活を送るようになり、また、社会的規律も十分には教えられずに育てられたという不遇な成長過程を経てきたものであつて、これが被告人の判示のような反社会的性格を形成し助長するにいたつた一因をなしているものであり(したがつて、かような反社会的性格を形成、助長せしめるにいたつた被告人の父親はじめその家族一同においてその責任を痛感すべきである。)、また、被告人は、判示のように、銃に対して異常な興味をもち各種のモデルガンや実際の銃を買い求めたほか、犯罪小説等を次々と買いあさつて耽読し、自然にこれら小説の影響を多分にうけ、目的のためには手段を選ばずといつた人命軽視の反社会的性向が知らず識らずのうちに形成され、これが本件犯行を決意するにいたつた一因ともなつていることは前記に認定したところから明らかである(したがつて、少年の人格形成の場である家庭、学校、一般社会等における教育の重要性、さらには商業主義によるマスコミの影響の重大性等について社会一般はこの際あらためてこれを再認識すべきである。)。

さらに、被告人は、判示に認定したとおり、もともとは温和でしかも素直な性格を有していたもので、残酷無慈悲な、あるいは兇暴的な性格は認められず、中学校卒業後において就職した各職場においても誠実熱心にその務めを果していたものであつて、前科その他の非行歴は全くなく、本件犯行中においても例えば判示○木○○子が車内で腹痛を訴え苦しみ出した際自己の不利を省みず同女を途中で下車させるなどわずかながらも人間性が見うけられるし、また、小、中学校における成績は終始下位であつたが、決して理解力が劣つているわけではなく、被教育適格を有していることは当時の担任教師の言および被告人の当公判廷内外におけるこれまでの言動からも明らかであつて、今後被告人を愛情と相互の信頼とにもとづいて十分に教育し、指導することによつて、銃に対する偏執的傾向を是正するとともに、如何に人命の尊いかを知らしめ、本件のような過ちを二度と繰り返さないよう真人間に復帰させ、これを更生せしめることは十分可能であると考えられる。

以上のような諸事情を総合して慎重熟慮するときは、先にるる述べた被告人の本件犯行自体、およびその結果の重大性にもかかわらず、むしろ、この際、本件各被害者、ことに○所巡査とその遺家族に対してはまことに同情の念を禁じえないのであるが、被告人について存する前記諸事情をくんで、被告人に対して、極刑を科してその生命を奪うよりは、死一等を減じて真人間への復帰を期待し、涜罪の生活を送らせるのが結局相当であると信ずる。

そこで、被告人の判示第四の一、二および六の各罪については定められた刑のうちいずれも無期懲役刑を選択すべきものとする。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大中俊夫 裁判官 唐松寛 裁判官 加藤一隆)

(別紙)(編省略)

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